いま「宇治抹茶」という名前だけで、本物かどうかを判断するのは難しい時代になっています。
なぜなら、中国では「宇治」を含む商標の申請が全分野で3000件を超え、産地が中国であっても堂々と「宇治抹茶」を名乗る商品が流通しているからです。
実際に、通販で50グラム1600円ほどの「宇治抹茶」を取り寄せてみたら、産地表示は中国・安徽省だった、という報道もありました。
この記事では、抹茶が好きでこれから買おうと考えている方に向けて、名前に頼らず本物を選ぶための視点をお伝えします。
「宇治抹茶」なのに中国産?いま何が起きているのか

「宇治抹茶と書いてあるから安心して買っていた」という方は多いと思います。
その感覚は、今までは正しいものでした。しかし近年、その前提が少しずつ崩れはじめています。まずは、今抹茶業界では何が起きているのか解説します。
商標申請3000件超という現実
京都府茶協同組合が中国の商標当局に確認したところ、「宇治」を含む商標の申請は、お茶以外の分野まで含めると3000件を超えていたといいます。
お茶の分野(第30類)に絞っても、出願中を含めて191件にのぼります。
背景にあるのは、「宇治」が中国では商標として押さえられておらず、社名や商品名に「宇治抹茶」と付けること自体が、現地の法律上は問題にならないという構造です。
つまり、誰でもかんたんに「宇治抹茶」を名乗れてしまう「危険」があるということです。
50グラム1600円の「宇治抹茶」の中身
今ある問題でよく目にするのが、中国で作られた抹茶が「宇治抹茶」として販売されていること。
しかも中国企業の抹茶の価格は、50グラムで日本円にして約1600円くらい。
これは京都・宇治で売られている本物の宇治抹茶と比べて、かなり安い価格です。
実際に中国企業が販売している「宇治抹茶」を調べて見ると、商品名や会社名には「宇治」の文字があるにもかかわらず、産地の欄には「安徽省」と書かれていたそうです。
この「安さ」と「宇治の文字」の組み合わせこそが、消費者が思わず手に取ってしまう入り口になっています。
なぜ「宇治抹茶」の名前だけでは見分けられないのか

ここで少し、感情的な話から仕組みの話に切り替えます。
「中国は偽物ばかり」で終わらせてしまうと、肝心の「では自分はどう選べばいいのか」が見えなくなるからです。
なぜ名前だけでは見分けられないのか、その理由は大きく二つあります。
「宇治抹茶」はブランドであって産地表示ではない
多くの方は「宇治抹茶=宇治市で採れたお茶」とイメージしますが、実際の定義は少し異なります。
「宇治抹茶」は一定の条件を満たせば名乗ることができる、いわば保護されたブランド名です。
産地そのものを厳密に示す表示とは違うため、どこからが本物でどこからが偽物なのか、消費者の側からは線引きが見えにくくなっています。
この「あいまいさ」が、偽物が入り込むすき間を生んでいるのです。
中国産=粗悪、とも言い切れない事情
一方で、「中国産だから中身も粗悪」と単純に決めつけるのも、実は正確ではありません。
2025年に学術誌に掲載された品質評価の研究では、日本・静岡産が93.5点だったのに対し、中国・恩施産が90.7点と、その差はわずか2.8点まで縮まっていました。
中国でも日本式の栽培・製法を取り入れる生産者が増えており、品質は着実に上がっています。
これは「良い抹茶か悪い抹茶か」という単純な話ではなく、「産地が正しく表示されているか」という透明性の問題なのです。
名前に頼らず本物を選ぶ3つのチェックポイント

中国産の抹茶の品質が上がっているとは言え、やっぱり本物の宇治抹茶がいい、国産にこだわりたい、という人も多いはず。
そんな私たち消費者は、何を手がかりに選べばよいのでしょうか。
ポイントは「宇治抹茶」という名前そのものではなく、その背景をたどれるかどうかです。買い物の前に、次の3つを確認する習慣をつけてみてください。
① 産地・原料原産地の表示を確認する
まず見てほしいのが、パッケージ裏の原料原産地表示です。
「宇治抹茶使用」という表現と、「宇治産」「京都産」という産地の表示は、意味が異なります。
「使用」とだけ書かれている場合、どこの原料をどれだけ使っているのかがはっきりしないこともあります。
名前の大きさに惑わされず、小さな文字で書かれた産地表示までしっかり目を通すことが第一歩です。
② 販売元・製造者が明確かを見る
次に、誰が作って誰が売っているのかがはっきりたどれるかを確認します。
老舗の茶園や製造者の名前が明記され、公式サイトや問い合わせ先までたどれる商品は、それだけ情報を公開している証拠でもあります。
逆に、販売者の実態が見えにくい商品は、たとえ「宇治抹茶」と書かれていても慎重になったほうが安心です。表の表示だけに頼らず、自身で追及する力は、名前以上に信頼の目安になります。
③ 価格が相場から極端に安すぎないか
最後は価格です。近年は抹茶ブームで原料が世界的に不足し、国産抹茶の価格はこれまでの2倍以上に高騰しています。
そうした状況で、質の高い宇治抹茶が不自然なほど安く売られていたら、一度立ち止まって中身を確かめる価値があります。「安く買えた」と思ったものが、まったくの別物だった、というケースは決して珍しくありません。
信頼できる販売店からきちんと選ぶことが、結局は遠回りに見えて確実な近道です。
まとめ:名前ではなく「たどれるか」で選ぶ
中国で「宇治」の商標申請が3000件を超えているという事実は、裏を返せば、それだけ宇治ブランドが世界中で評価され、欲しがられているということでもあります。
悔しい話ではありますが、宇治抹茶の価値の高さの証明でもあるのです。だからこそ、私たちにできる一番の対策は、名前だけで判断しないことです。
産地表示を読み、誰が作ったのかをたどり、価格に不自然さがないかを確かめる。
この3つを習慣にするだけで、失敗はぐっと減らせます。安く買えたときの喜びが、あとで後悔に変わってしまわないように、これからは「名前」ではなく、どこまで「たどれるか」で選んでいきたいですね。
